北朝鮮内部の変革者の証言録(3)

北朝鮮内部の変革者の証言録(3)
金氏体制の最大の弱点は唯一領導体系
――あらゆる人権侵害の根源ここにあり――
『月刊朝鮮』2019年10月号より
 
最氏語る、「金氏体制の一番致命的な弱点は、自己の唯一的領導体系を建てるために、自分の命令指示に無条件服従させる秩序を建てたことである。これによって首領の命令一下に、全党、全軍、全民が一つのように動く、強い組織規則を建て、世界のどの国家指導者も示すことのできない政治勢力を示すことができると自慢しつつ、一心団結した政治体制は必勝不敗だとホラを吹いているが、実はこれが一番大きな弱点であり、北朝鮮の人権問題が発生する根源である。詳細に説明しよう。
「独裁者は言う、首領一人が国のあらゆる人を相手に一々指示を出すことが出来ないために、自分の意図と命令指示、自分の意図が体現されている党の決定指示は、必ず自分の命令指示であり、これを拒否したり、怠慢になることは、自分の命令指示に挑戦することであって、これを無条件に執行する過程が唯一的領導体系を打ち建てるものであると言った。
これによって、上では党中央の指示が道党に、道党から郡党に、郡党から里党、村の部落党、末端の党細胞に至るまで、独裁者の指示が細分化されて下りる。
 
〈唯一者の指示の具体例――芝を植えろ!〉
 
例として、金正恩が2014年10月25日真筆批准指示として平壌市、各道市郡区域、洞人民班に村の前庭に芝を植える指示を下ろしてみると、唯一的領導体系によって無条件に執行され、その過程で言葉で言い表せないほどの、多くの反人権的な諸問題が発生した。
先ず節気(注:二十四節気)的に寒さが迫ってきていて、全ての人が芝を植えるため土を掘るためにスコップとつるはしを縛って持ち、芝を植える場所に行く。家から作業場まで行かなければならず、そのため作業工具を縛ってバスか地下鉄に乗らなければならない。バスや地下鉄の入り口には検束成員(保安員=警察官)がいる。彼らの任務はさっぱりした服装で通りに出てこない人たちを検束ことである。具体的に言えば、
作業工具を縛って手に持ち地下鉄に乗ることが出来ないために、そうしようとする人を検束するのである。芝を植えろと言う方針(指示)貫徹のために、作業工具を縛って手に持っていくのだと主張すれば、作業工具を縛って手にもって地下鉄に乗ろうとする者も検束しろというのは上から出ている方針貫徹だと保安員は言う。そうであれば芝植えに行くなということかと問えば、それはあんたが受けた方針(指示)であり、私が受けた方針(指示)は検束しろという方針だけだと言って、その人たちを検束したのちに、罰金を収めさせ、また3時間乃至5時間程度拘留したという。ここで反抗すれば、実際に保安署に引っ張ってゆき、芝植えに行こうとすれば、検束成員(警察官)に0.5ドル程度の金を支払って地下鉄を利用して作業場までいかなければならない。」
 
〈労働鍛錬隊の実態〉
 
「検束員が意地悪にそのような言いがかりをつけて検束するのか?いやそうではない。十分に分かっていてそうするのだ。検束員の一ヶ月の収入は米12㎏、トウモロコシ7㎏がすべてで、お金としては0.3ドル程度である。・・・妻子を養わなければならず、仕方なく、保安員の検束権限を利用して住民たちの財布からかすめ取らねばならない。方法は唯一的領導体系を活用して、方針に引っ掛けて検束しなければならない。お金を出せば芝を植える方針貫徹だから、送ってあげると言い、差し出さないと検束せよという方針を執行するために、検束したのち保安署に引っ張っていき、各々5時間程度強制労働すれば済む。一日に検束しなければならぬ人の数は計画されている。無条件3人程度はくくっていかなければならず、検束にかける時間も、朝出勤時間で1時間に出来るだけ多く言いがかりをつけてつかまえてお金を稼ぎ、方針も決死貫徹することが出来るのである。
 住民の立場では、万一お金がなく保安署に引っ張られる場合、午前の作業に参加できない。このようなことが何度か繰り返されると、保安署監察課の呼び出しを受けるようになり、6ヶ月間の労働鍛錬隊に送るという。お金を出せばあいまいにされ、出さないと本当に引っ張られる。監察課もまたお金を稼ぐことが出来、できるだけ多くの人が無断欠勤すれば、お金も稼ぎ、労働鍛錬隊の入隊生数も整えることが出来る。これも1ヶ月に何名鍛錬隊に送らねばならぬという計画がある。
 労働鍛錬隊は、わからず罪を犯す者ではなく、わかっていても犯す者であるため、その労働強度が言葉では言えない程だ。ここは一般の強盗詐欺、暴力犯罪者たちが行く所ではなく、純粋に6ヶ月以上仕事をしても、出てこれない人を集めて置き、無報酬労働を怠慢な者たちに、より強度の高い無報酬労働と殴打、人間以下の羞恥をあたえることで、職場での無報酬労働が幸福だったなあという印象を与えることが基本目的である。このために鍛錬隊を終えて出てきた人々の言葉は、家で眠り、職場に出て仕事をし、配給をもらわなくても、どれ程幸福であるかわからなかった、鍛錬隊に行かなければわからなかったというものである。
これは単純なことで、党機関であれ、軍部の人民たちに対する収奪と行政機関、勤労団体機関、司法警察機関の様々なあらゆる収奪行為は、みな方針貫徹過程であるという形態を帯びていて、ここに反抗することは、唯一的領導体系に挑戦する事として評価されるために、このようなことが合法的に恣行によってされ、独裁者はむしろこれを自己の政治実力によって、すべての人民があらゆる権力機関の指示によく服従していると満足しているので、このような一心団結のための銃床(注:犠牲の意)政治があらゆる反人権的諸行動を発生させているのである。
〈人民たちの一心団結は反体制者を全て殺して得た結果である〉
金正日は自分の政治実力が優れていて、人民たちの支持に一心団結を実現して見せたと自慢しているが、これは自己の独裁政治を自分で自慢しているだけである。南朝鮮も北朝鮮の様に、智異山の人跡のない所に政治犯収容所を作り、済州島と巨済島を一つの収容所として作ったのちに、大統領を少しでも非難する言葉を吐けば、本人は勿論多くの人を集めておいて火をつけて殺したのちに、死んだ人の父や母をして自分の息子が死んで当然であるという演説をさせて、独裁者を非難する垂れ幕を掲げた人々を火焔放射器か機関銃で撃って殺したのちに、死んだ者と親戚間の認知もわからない者まで済州島や巨済島、智異山の中に閉じ込めて、生涯奴隷生活をさせれば、最初には意見があって、それを掲げ立ち上がっても、掲げて立ち上がるたびに殺し、また収容所に押し込め、反抗する者は全て殺し、全家族を収容所に送ることを約50年位すれば、そののちには、朴槿恵大統領を支持する人たちだけが生き残り、南朝鮮にも朴大統領決死擁護の力強い万歳の声が天地を震撼させうることであろう。
しかし、これは独裁者個人にはよいかもしれないが、そのためにどれほど多くの人が処刑されなければならず、多くの人を苦痛の中に生かす対価として実現しなければならないことに、この世界で誰もやらない政治をやりつつ、それを自慢げに感ずる所に、全ての人権問題の根源があるのである。一人の人のために全ての人を服従させる独裁秩序だけが崩れれば、貧困も零歳児、妊産婦問題も徐々に解決されるであろう。
 
〈金正恩から派生した権力は、末端の公務員まで濫用〉
 
整理してみれば、独裁権力は金正恩だけが持っているものでではないということだ。朝鮮労働党中央委員会総秘書が200という権力を持つているとすれば、、道党委員会責任秘書は20という権力を持っており、郡党委員会の責任秘書は1を持っている。その下の下部末端の公務員に至るまで細分化されて、分けて持っているのである。
金正恩の権力は自分のもので、その下の権力は金正恩が臨時に貸し与えたものである。金正恩の指示が道党に下りると、道党はそこに自分の指示を少し混ぜて下に下ろし、郡党はまた自分の指示まで少しく混ぜて末端の公務員まで伝達し、末端の公務員は自分の意図まで混ぜて金正恩の指示という命令で直接執行対象である人民に伝達する。金正恩だけが自分の権力を利用して自分の贅沢と豪華な生活をしてはいず、道党も、郡党も、末端職の公務員も、無条件で執行される唯一的領導体系を利用して自分の利益を実現する。金正恩一人の贅沢を保障することに数多くの人が飢えなければならず、道党から末端の官僚に至るまで、彼らによって奪われるまで奪われなければならない人民の生活は、これ以上いう必要はないであろう。
金正恩の指示を権力階層の官僚たちがよく執行することは、その過程で下の単位に自己の指示も決死貫徹できるからである。結局唯一的領導体系は権力階層の利益と結びついて、北の人民たちに対する搾取と収奪につながり、その過程において人権問題というものを発生するのである(文責 小川 晴久)。
 
〈訳者小川のコメント〉
今回翻訳した所は冒頭の表題に掲げた通り、北朝鮮の金氏体制の一番の弱点は、唯一的領導(指導)体系にあるという指摘であり、この主張はとても注目すべき指摘であるが、それぞれの単位の自発性の発揮が許されないという所にその弱さがあることはわかる。同時になされている、この唯一的領導体制の実現を求める過程が北朝鮮社会の人権侵害の根源であるという指摘はとても大きく鋭い指摘である。唯一的領導体系が北の独裁体制の最大の弱点という根拠は、自発性の抑圧の外にこの人権侵害の根源という指摘が、もう一つの重要な根拠であるのではと感じた。今回訳していて、韓国が北朝鮮のような体制になるにはどういう姿になることかが、智異山の中に、南海岸一帯に強制収容所を作り、最高指導者(大統領)に異を建てる者を片っ端から本人は勿論、家族、親戚、仲間を殺していけばいいという指摘は、とても強烈的であった。連座制で片っ端に殺していくのである。韓国に北朝鮮社会を実現することをこのように描くことによって、北朝鮮社会がこの五十年、少なくとも1956年以降どういうことが行われ続けてきたかをわれわれに想像させる。ここの指摘も強烈で重要である。